島原で醤油・味噌を造り続けて103年 拡大よりは持続を! 島原の味とお客様を守る老舗の挑戦 【合資会社林醤油本店】(下) 遊撃する中小企業 〜がんばってますけど、何か?

地域企業

代表社員 林 りえ

合資会社林醤油本店
創業:1918年11月
事業内容:醤油・みそ製造業
従業員数:13名
所在地:長崎県島原市北門町1309-1
経営理念:時代が流れても、地域に根ざす「さ・し・す・せ・そ」(調味料) の安定した変わらない味を守っていくこと。食卓の安心安全をお届けすること

麹造りを引き継ぎ、自社の味を守っていく

麹は寝ないと言われます。夜も麹は生きて、働いているのです。4日間かかりますので、その夜の時間帯がやっぱり不安ですね。寒い日には室温が摂氏で1桁台になりますが、麹の温度が下がってはいけないので、すごく大変で気を遣います。麹造りの適温は摂氏36度〜38度で、夏でも冬でもそれを保たなければならないのです。10月ぐらいの一番温度が高い頃でしたら、あまり手をかけなくてもできるのです。しかし、真冬の1桁台の温度から36度以上に上げるのは大変です。底冷えがしますから、下の方の麹は温度が上がらないのです。そこで、一番手入れ、二番手入れと言うのですが、麹を上下入れ替えたり、板の上に移し替えたりして、米のかたまりを手でほぐしたり、切り返したりして、温度が均一になるようにしてやるんですね。その時に温度が下がっている麹には「温度調節、頑張ってね」とか「応援しているよ」とか声をかけて手入れをするのです。そうしてできた麹は、樽に入れて塩水と一緒にして発酵させていきます。その後も常に手を入れて、酸素を入れてあげます。そうしないと、品質のよいもろみにならないのです。もろみにした後は樽の中で熟成させます。3年ぐらい経つと、醤油に絞れるようになります。

こうして、この土地のこの建物で醤油や味噌や甘酒を造ることができているのは、建物の中によい麹菌が生きているからなのです。麹菌は見えませんが、確かにいます。だから、見えないものが私たちを支えてくれているということに、気付いてもらえたらと思いますね。最終的に麹が育つ環境を必ず同じになるように調えてあげるのが人間だけど、育ってくれるのは麹菌がいるからです。目に見えない存在の麹菌が麹そのものを作ってくれているのですが、いつも同じような麹ができるのが素晴らしいな、と思うのです。私も、麹菌に育てられているという気持ちがしています。

いろんな会社の醤油がありますけれども、角が立っているとか、まろやかだとか、味も香りも全部違うのです。それを守れるのはその土地でしか作れない麹のおかげで、麹の情報は麹室の中に全てあるのだと思うのです。いろんな味があって当たり前なのですが、自分の味はこれ、と自信を持って守っていくことが当社の使命だと思っています。

HACCPへの対応とこれから

2021年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者はHACCPに沿った衛生管理に取り組まなければいけなくなります。HACCPというのは、食品製造の衛生管理の手法です。食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去または低減させるために重要な工程を管理し、製品の安全性を確保することを目指すものです。

これを受けて当社でも、HACCPの衛生管理基準に適合した工場を造りました。この建屋全体をHACCP対応にする必要はないので、管理対象となる重要な工程だけを1か所に集め、そこだけを他の製造設備から独立させて隔絶し、HACCPの基準に適合するようにしました。つまり、工場の中に新しいHACCP対応の工場を造ったのです。この工場の建物全体はJASの基準を満たしています。JAS対応のこの工場はそのまま活かして、その中にHACCPの工場を入れました。こうして、工場全体はJASで守られていて、その中でもHACCPが必要なところはちゃんとHACCPで守られるという状態にすることができ、引っ越す必要もなくなりました。最初は、今座っているこの建屋の中にHACCPの工場を入れようかと計画していたのですが、ここは2階に麹室と味噌の生産設備がありまして、天井が低いので難しいという判断になりました。そこで、 奥の方の、もろみを絞る設備などが置いてあった場所の機械やタンクなども全部外してしまって、そこに新しい工場を造りました。工場造りには平成30年のものづくり補助金を活用させていただきました。これからの時代を考えると、非常に大きな一歩になったと思っています。

いつまでも変わらない味を

何とか生き延びて、会社を娘に残していきたいと思っています。右肩上がりでなくてよいと思っています。上がると、絶対下がりますからね。それに右肩上がりにすると人が必要になります。人口減少ですし、こういう工場とか製造の会社は、求人募集してもなかなか若い人が入ってこない時代ですから。醤油は日本の食文化ですから、できれば日本の方に受け継いで働いてもらいたいとは思っています。それで、新しいHACCPの工場は、見学していただけるように造りました。厳しくなったHACCPへの対応はもちろんですが、お客様にも見せられる綺麗な工場にすることにこだわりました。

私たちが子どもの頃は、牛乳屋さんとかパン屋さんとかに見学に行ったものです。しかし今の若い人は、工場見学に行ったことがないのだそうです。それで、そういう見学の機会を作ってあげないといけないな、と思いました。モノづくりの会社が減るというのは、見える魅力がないからだと思います。モノづくりの魅力をアピールできるようなことをやりたいな、と思いました。日本人でよかったなと思って見てもらえるようにしたいです。

【若林宗男のココに注目!】

味というのは不思議なもので、地域性が強い。このことは、醤油という商品の流通にも大きな影響を与えている。つまり、味文化が違うところには流通しにくいということだ。実際、林醤油の商品も島原市での需要が9割以上を占めるという。これは右肩上がりの拡大路線から見たら、窮屈な制約に見えるかもしれない。しかし見方を変えれば、この9割以上はこれから先も商品選択を変えないことを意味しているのだ。島原市の外の醬油屋が、島原市に入るのは難しいという ことである。これはつまり、日本人にとっての和食の味を調える醤油を造る醤油メーカーは、ご当地の消費者によって守られているということだ。では、消費者の何によって守られているのか。消費者の味と舌によって守られているのだ。何と幸せな関係であろうか。

このように考えると林醤油の戦略は自ずと決まってくる。島原市民の全員に愛される商品作りを、これからも持続していくことだ。林醤油は、すでにそのための作戦を立てて実行に移している。今回の取材を通して私が知った作戦は次の3つである。
(1)HACCPに準拠した工場を造ること。
(2)その工場の設備を小中学生など地元の人々が見学できるようすること。
(3)醤油と原料が同じ麹を活かした発酵食品の新商品を、甘酒として開発し販売していること。

HACCP準拠の工場を人々が見学できるようにしたことも、大きな意義がある。食生活はシビック・プライド(都市に対する市民の誇り)の原点である。小学生が社会科見学でふるさとの味を作る工場を見ることは、その形成の一環だ。地域で生き続けるという選択肢を具体的に示すことにもなるだろう。

《ポイントまとめ》地域の味を守り続け、品質管理を見える化する

1.島原の味と顧客を守り、その関係を持続する。
2.そのためにHACCP準拠の工場を設立し、見学可能な綺麗な工場にする。
3.新商品を開発しつつ、町の人々と変わらない製品の味や価値を共有。将来につなげていく。

(おわり)

この記事について

元気な中小企業は、地域の宝!
地域経済を牽引する数多くの中小企業のなかから、福岡・佐賀・長崎の元気企業を紹介します。
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