島原で醤油・味噌を造り続けて103年 拡大よりは持続を! 島原の味とお客様を守る老舗の挑戦 【合資会社林醤油本店】(上) 遊撃する中小企業 〜がんばってますけど、何か?

地域企業

代表社員 林 りえ

合資会社林醤油本店
創業:1918年11月
事業内容:醤油・みそ製造業
従業員数:13名
所在地:長崎県島原市北門町1309-1
経営理念:時代が流れても、地域に根ざす「さ・し・す・せ・そ」(調味料) の安定した変わらない味を守っていくこと。食卓の安心安全をお届けすること

創業103年 島原の名水を使った醤油造り

大正7年に曽祖父が創業しました、2021年で103年になります。私は5代目です。創業したのは島原市役所のそばでしたが、昭和57年にこの北門町に移転しました。その頃は周りに何も建物がなくて、田んぼの中にぽつんと1軒、当社の工場だけがあったような状況でした。最初は社宅を建てて、それから工場を徐々に移し、最後に事務所と残りの設備を移転しました。この建物は、廃校になった中学校の校舎なのです。解体してこちらに持って来て組み立て直したようなのですが、当時はクレーンなどない時代でしたから大変だったと思います。2階では麹と味噌を造っています。島原は古くから水の都といわれて、水がよい場所です。この土地も地下水が豊富で、くみ上げて使っています。醤油造りは水が命ですから。

島原半島は、その形が人間の胃袋に似ているので、地元では「一億人の胃袋」と呼んでいます。普賢岳の火山の恵みで土壌が肥沃で、農業が盛んです。長崎県の農業産出額の約4割は島原地域が占めています。大根や人参、レタス、いちごなど多種多様な品目が生産されており、特に長崎県が全国で3番目の生産量を誇るジャガイモは、その多くが島原半島で生産されています。また、牛、豚、鶏などの畜産も盛んです。島原半島は有明海と橘湾に囲まれており、アラカブやタコなどの海産物が特産品になっています。食材が豊かで多様ということになれば、醤油の出番です。水がよくて、食も豊か。島原は、醤油造りにはとても恵まれた場所なのです。

島原のお客様が9割以上、地元の人々に支持されているのはうれしい

当社のお客様の9割以上は島原市にお住まいです。醤油は、人々の味や嗜好と深く結びついていますから、当社の醤油が島原市で受け入れられているのは自然なことだと思います。でも、このように普及したのは、初代から代々、地元で努力してきたおかげで、本当にありがたいことです。島原市以外では、数は多くないですが熊本県と佐賀県、それに福岡県などのごく一部ですが、継続的に使ってくださっているお客様がいらっしゃいます。

福岡県は、福岡市役所の15階にある職員食堂で、2021年の3月まで当社の醤油が使われていました(建物の改修で職員食堂は3月末で閉店)。随分前から使っていただいていたのですが、一度キャンセルされたことがありました。そうしましたら、常連のお客様が「いつもの醤油と違う」と言われたのだそうです。それで、職員食堂の受託業者の担当者さんがわざわざ当社まで訪ねて来られ、生産施設を見て行かれました。その方は、こんなふうに作っておられるなら安心ですね、とおっしゃって帰られました。後日、職員食堂で改めて当社の醤油が使われるようになりました。うれしかったです。

味に馴染むと言いますか、家族の味とか習慣とかは確かにありますね。ですから、毎日使っている醤油を別の醤油に変えていただくのはなかなか難しいです。九州の大手の醤油屋さんなども東京などに進出されたりしていますが、なかなか続かないみたいです。

当社では、島原から東京などに行かれて、飲食店などの商売をされていらっしゃる方には醤油をお送りしています。島原の味を求めておられる方たちは確かにいらっしゃいますので。やっぱり、小さい頃から食べ慣れた味というのは身体にしっくりくるようですね。

コロナの影響

コロナ禍になってから1年以上が経ちました(取材時)。コロナの感染拡大で、しばらく発注が止まりました。お客様から音沙汰がないのは、やはり不安ですね。飲食店は大変だと思いますので、どうしていらっしゃるかなと案じております。最近になって、少し荷物が動き出したようで、ちょっと明るい兆しが見えてきたような気がいたします。そういう兆しは、お醤油の注文が増えるので分かるのです。まだまだ本格的な回復とは言えませんが。

発注をいただいた時には、どうですかとお客様にお尋ねして、会話をするようにしています。そうすると、いろいろお話をしてくださるのです。注文をいただいて電話でお話できると、ホッとします。店舗の半分を締めてランチを充実させているお客様もいらっしゃいますが、煮物などが動く夜の飲食が動いてくれないと厳しいですね。飲食店はもちろんのこと、醤油の使われ方が夜の飲食とランチやお弁当では違いますから。ランチやお弁当では、揚げ物や焼き物が主になりますので、醤油の出番が少ないのです。

コロナの影響で飲食店は大変ですが、一方で、家庭で食べる食事が見直されているようです。外食が無理なら家の食事を充実させて、家族で楽しむようにされる方が多いようです。家の食事は、その土地の食材を活かすことになりますし、先祖代々の味や調理法や食事の作法を思い出したり考えたりする機会でもあります。そういうことを家族で確認し合うことも意義がありますよね。家庭の味の見直しと言いましょうか。ですから、コロナ禍ではありますけれども、家族が一緒に自宅で食べられる機会を楽しんでいただきたいと思っています。

これからと、後継者のこと

これからは、人口が減っていきますから心配ですね。いよいよ娘の時代になりますが、大変だと思います。私が元気な間によい環境を作ってあげたいと思っています。また、この家業と会社を残したいし、続けてもらいたいとも願っています。手伝う中で、娘はいろいろ悩んだり落ち込んだりすることもあるようです。私は、自分で体験しておくことが大事だと思っています。突然何かをやれと言われても、分からないと思うんですよ。勉強だけしていてもダメで、実践をして、条件によって違ってくるということを体験しないと、分からないですからね。

娘は、今は一生懸命甘酒を造っています。私は甘酒は造らなかったので、娘に飛び越えられたような気持ちです。神社のお祭りに奉納甘酒を造ってお供えして、それを皆さんに振る舞うという風習があり、今まではその時だけ造っていました。しかし、新しい商品として甘酒がいいんじゃないかと言ってくださる方がいて、容器なども考えて販売するよう になりました。甘酒は飲む点滴と言われますし、20年ぐらい前からでしょうか、身体によいということで注目され、ブームにもなっていますから、時勢にも合っていると思います。特に今は、コロナの時期で、免疫力を高めるために飲んでおられる方も多いようです。おかげさまで、いろんなお客様が買ってくださっています。また、娘は料理学校を出たので、料理などにも活かすことができたらよいと思っています。

会社の仕事を手伝ってくれているので、娘と従業員との関係もできています。しかし後継者となると、まだまだ安心はできません。現場も大事ですし、事務も経理もできないといけないですから。まず一つひとつを学んで行って、お客様のことも学んで。まだまだこれからですね。私もやっとなんとかやれるようになったような状況です。これまでは父が元気でしたので、いろんなことを習いながらやって参りました。麹造りから何から、身をもってさまざまなことを体験し、教わりました。娘はそういう体験もしないといけません。

(下)につづく

この記事について

元気な中小企業は、地域の宝!
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