70年続くロングセラー商品 伊万里焼饅頭を原動力に老舗和洋菓子がさらなる挑戦へ 【有限会社エトワール・ホリエ】(下) 遊撃する中小企業 〜がんばってますけど、何か?

地域企業

代表取締役 堀江あさ子

有限会社エトワール・ホリエ
創業:1900年(法人登録1982年6月1日)
事業内容:菓子製造販売
従業員数:22名
所在地:佐賀県伊万里市伊万里町甲585
経営理念:伝統工芸の町「伊万里」。その伊万里の歴史や文化を反映したお菓子作りを通して、全国に紹介する事

伊万里茶との連携で伊万里焼饅頭緑茶が誕生

第1回の勉強会は、2018年に伊万里信金の会議室で開かれました。私と次女、そして社員2名で参加しました。発売から70年、何も変えてこなかった売れ筋ナンバーワンの伊万里焼饅頭から新商品を作るというプロジェクトがスタートしました。

一番の特徴である、陶磁器の貫入をお菓子で表現している部分は、変えるつもりはありませんでした。そうなると、味や色で変化を付けることになります。伊万里はお茶作りも盛んで、伊万里市内の日南郷(ひなたごう)はお茶の産地として知られています。また伊万里の山口製茶園さんの緑茶が、2015年の世界緑茶コンテストで金賞を受賞しています。この伊万里の緑茶を活かしてはどうだろう、ということになりました。伊万里焼饅頭は黄身餡ですが、新しい餡として、緑茶餡を作ることを考えました。緑茶の味わいと色を活かした餡作りに挑戦し、試作と試食を重ねました。着色料ではない、天然の緑色と世界緑茶コンテスト金賞の緑茶の技法が加わった新しい餡が生まれました。その餡を使った饅頭を伊万里焼饅頭緑茶と名付けました。

67年間にわたり、愛されてきた伊万里焼饅頭に新しい商品が加わりました。これにより、従来の伊万里焼饅頭と新商品を組み合わせた詰め合わせセットもできるようになりました。ふるさと納税の返礼品にもなり、好評を得ています。

社長になって初めて作った新商品がデビューできてホッとしました。でも、年が改まると、次の新商品作りのプロジェクトが始まりました。休んでいる暇はないのですね。

伊万里焼の器とのコラボで伊万里焼ダブルスイーツが誕生

今度は、伊万里信金の商品開発アドバイザーの平松さんが、伊万里焼の器との組み合わせを提案されました。伊万里焼きの器の中に洋菓子を入れて、器ごと販売するというアイデアです。平松さんが、伊万里市大川内町にある伊万里焼の窯元、畑萬陶苑とつないでくださいました。畑萬陶苑は伊万里鍋島焼の伝統を現代に活かす器作りをされています。400年の伝統がある伊万里焼の器と伊万里で育った洋菓子との組み合わせです。ワクワクしました。

器の中に入れるお菓子として、最初はスフレを考えました。スフレは温かくして食べるお菓子ですから、電子レンジで温めて食べていただこうと考えたのです。試食会では好評でした。しかし、市販の電子レンジは500ワットと600ワットが選べますので、その選択で味わいが変わってしまいます。従ってスフレはやめようという結論になりました。ですが、スフレはお客様に冷凍で届ける予定でしたので、この形を引き継ぎ、冷凍したお菓子を自然解凍させる方向で考えたらどうか、ということになりました。

伊万里焼の磁器の蕎麦猪口タイプのカップに、生クリームを使ったレアチーズケーキを入れ、その上に緑茶のティラミスを重ねました。緑茶のティラミスと思って食べていると、下からレアチーズケーキが出てきて、驚かせる仕掛けです。器は、白磁に藍色の染付をした「結び」、白磁に色鍋島の赤絵で染め付けた「丸更紗」、そしてシンプルな青磁の「せいじ」の種類を用意しました。

商品名は、伊万里焼W(ダブル)スイーツとしました。伊万里焼の器と当社のお菓子でダブル。緑茶ティラミスとレアチーズケーキの2段重ねでダブル。畑萬陶苑とエトワール・ホリエのコラボでダブル。

2019年の5月26日に販売を開始しました。おかげさまで売上も好調です。伊万里市のふるさと納税の返礼品にもなっています。ひとつの器入りの単価が1800円(税別)と当社の商品としては高いですし、勉強会の中でも高いのでは、という声はありましたが、器の費用もありますし、今後は商品の価値にふさわしい価格ということも考えていきたいと思っています。アドバイザーの平松さんからも、東京や大阪などの大消費地のお客様には受け入れられますよ、とおっしゃっていただきました。実績もそれを裏付けています。
お菓子を食べた後も器として使えますので、お得感があると思います。

社長になって、3年で3つの新商品にチャレンジ

商品開発の勉強会は、伊万里信金さんが手を引っ張ってくださいました。最初は大変と思いましたが、参加する度に新たな発見があり、とても有意義でした。主人が作ってくれたものを売るのが私の仕事と思っていましたが、商品開発に携わることができて、社長になれた気がします。主人も喜んでくれていると思います。

伊万里信金さんには、商品開発以外でもお世話になっています。これまで、伊万里焼饅頭緑茶は一つひとつ真空包仕上げを手作業でやっていましたが、この包装作業を自動化できる包装機械は伊万里信金さんの融資で導入できました。

社長になって4年目(取材時)を迎えます。コロナ禍はまだ収まりません。当社にもコロナは大きな影響がありました。密になることを避け、不要不急の会合は開かず、外出も自粛しようということで、結婚式や法事、入学式や卒業式なども規模が縮小されたり、中止されたりしております。婚礼のお菓子、お祝いのお菓子、法事のお菓子などの需要が縮小してしまいました。ビジネスの出張が減っておりますし、帰省も自粛されています。こうなりますとお土産が動きません。こういう中で、新商品の開発に毎年取り組めているのはまことにありがたいことです。時代が大きく変化している中で、時代に合った商品を増やしていくのは当然のことで、これは引き続き続けて参ります。一方で、商品の数が増えておりますので、見直しを進めたいと考えております。個包装の機械化のように、仕事の環境を改善して、効率的な働き方を推進していかなければならないと痛感しております。こういうことにも取り組んで参りたいと考えております。

それから、新商品の開発では、伊万里焼饅頭の緑茶餡は伊万里茶の山口製茶園さんと、伊万里焼Wスイーツは畑萬陶苑さんとのコラボにより生まれました。伊万里茶も伊万里焼も伊万里の人々の努力と歴史によって育まれてきた、郷土の誇るべき資産です。そういう資産を守り、その価値を高めてこられた地元の企業さんとコラボして新しい商品を開発できたことは、まことに光栄なことでした。1社でできることは限られておりますので、今後とも地域の企業さんとの連携を深めていきたいと考えております。

私は、主人の急死で社長を継ぐことになりました。信金さんはじめ、周囲の皆さんのおかげで、何とかできております。社長になって思うのは、120年続いてきたこの会社を、どのように次の時代に引き継いでいくかということです。

新商品の開発プロジェクトに次女、社員と一緒に参加できたことは、私にとってはとても有意義でした。きっと社員にもよい経験になったと思います。商品開発の仕事に取り組んだという以上に、伊万里信金の皆さんの当社への期待を理解する機会を得たということが大きかったです。また、手を携えてお互いの持っているものの価値を高め合える地域の企業の存在に触れたことも大きかったと思います。家族であるということと、エトワール・ホリエという会社の一員であることは、同じことのようでもありますが、違うことでもあり、その違いについて考えることができたことは本当に有意義でした。

【若林宗男のココに注目!】

地域の中小企業が連携して新しい商品を作り、それにより地域の価値を高めるという仕事があることを、エトワール・ホリエの新商品開発は物語っている。伊万里茶と洋菓子の連携、伊万里焼の器と洋菓子の連携。この2つの連携は、伊万里焼饅頭というロングセラーのベストセラー商品をエトワール・ホリエが育て守ってきたから起きたことだ。創業者は伊万里の人ではないのだが、70年にわたり伊万里焼饅頭を作り続けてきた結果、エトワール・ホリエは伊万里起源のお菓子屋となった。伊万里焼饅頭緑茶も伊万里焼Wスイーツも伊万里信金の熱心な働きかけなしには生まれなかったが、それも、70年にわたり続いてきた伊万里焼饅頭がなければ生まれなかったのだ。つまり、伊万里焼饅頭は、ビジネスのプラットホームなのだ。そこに新しいアイデアを盛り込んで、さらに新しい商品に作り変える、地域が活性化するための共通の土台なのである。

《ポイントまとめ》

1.商品は他の企業との連携のプラットホームであり、商品開発のプラットホームであり、地域貢献のプラットホームである。
2.400年以上の歴史ある「伊万里焼」の名を冠した、伊万里焼饅頭、伊万里焼Wスイーツ等、地域の名称を付けることの価値。
3.貫入という良質の陶磁器の世界のひび割れを菓子で表現した独創性と技術によって、「伊万里焼」のブランド名に負けないヒット商品に。

(おわり)

この記事について

元気な中小企業は、地域の宝!
地域経済を牽引する数多くの中小企業のなかから、福岡・佐賀・長崎の元気企業を紹介します。
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