2万坪の山林を舞台に豊かな自然を楽しむ宿泊観光づくり グローバルニッチ戦略で未来を拓く【そのぎ茶温泉株式会社】(上) 遊撃する中小企業 〜がんばってますけど、何か?

地域企業

取締役会長 矢野義範

そのぎ茶温泉株式会社
創業:2020年4月1日
事業内容:温泉旅館
従業員数:18名(パートを含む)
所在地:長崎県東彼杵郡東彼杵町一ツ石郷字杉ノ尾981
経営理念:観光業として地域経済に貢献する

1泊2食、1名の価格3万円の離れ形式の温泉宿を開業

長崎県大村市の東彼杵町の山林に、離れ形式の温泉旅館「そのぎ茶温泉 里山の湯宿『つわぶきの花』」を昨年4月(取材時)に開業しました。大村市内で「大村セントラルホテル」というビジネスホテルを経営しているのですが、新しい宿泊施設を作るなら、ビジネスホテルではなく単価が高くてゆったり過ごしていただける温泉付きの宿を作りたいと思っていました。2食付きで大人1名の宿泊価格が3万円前後。離れ形式の和室温泉旅館です。私の夢が実現しました。

温泉も新しく掘りましたが、これは挑戦でした。日本は1000mほども掘ると、よほど間違わない限り温泉が出てきます。しかし、本当に温泉が湧くかどうかは掘ってみないと分からない。掘るのはお金がかかりますし、金融機関から融資を 受けてやるので、信金さんは実はかなり心配をされました(笑)。

1000m以上の地下を掘るとなると、20tクラスの機械を大型トラックで運ばなければなりません。そのために新しい道路を造らなければなりませんでした。道路を造るためにさらに土地を買い増し、雑木山の切り崩しから始めました。

温泉を掘るための県の許可は1500mまで取り、お湯の量は1分間に380ℓ、摂氏41~50度の温泉を求めて掘りました。1200mまで掘り進んだところで36度5分のお湯に当たりました。宿には、それぞれに露天風呂と内風呂が付いた13の客室があり、さらに大浴場と予約して使える林の中の2つの貸し切り露天風呂がありますが、この湯量なら十分でした。それでも余るぐらいで、将来の拡張にも対応できる量が確保できました。

温泉が確保できたので、この宿を運営する新会社の名前を、そのぎ茶温泉株式会社とし、宿の名前に「そのぎ茶温泉」を付けることができました。そのぎ茶温泉という温泉場があったわけじゃないのですが、そのぎ茶と温泉にはこだわりがありました。日本茶の順位を決める全国茶品評会という74回続く表彰制度がありまして、そのぎ茶は2017年から蒸し製玉緑茶の部で最高位の農林水産大臣賞を4年連続で受賞しています。よいお茶ができる温泉地でゆったりくつろいでもらいたいという思いを込めました。そのぎ茶の発展にも貢献したいと思っています。

お湯の質もとてもよく、ラッキーでした。メタケイ酸という成分を多く含む美肌の湯なのです。1kgの中にメタケイ酸が 50mg以上入っていると、美肌の湯といって売り出せるひとつの基準になっています。私どもの温泉には、なんと3倍弱の137mgも入っています。ですから、お風呂に入ると肌がすべすべになります。お客様に喜んでいただいています。

ビジネスホテルから温泉宿へ

大村市内に、大村セントラルホテルというビジネスホテルを23年前(取材時)に開業し、経営しています。開業当時の大村市内の宿泊施設は脆弱でしたので、信金さんのご支援もいただいて開業しました。その後はどんどん新しいホテルが建設され、昨年(取材時)も国道沿いに新しいホテルができています。今後もどんどん新しい宿泊施設ができます。そうすると、古いホテルは厳しいです。ビジネスホテルを継続するのか、料金も客層も違う新しい宿を目指すのか、真剣に考えました。

ホテルはリニューアルしながら維持していきますが、23年も経ちますと、お風呂とか水回りのメンテナンスが必要となります。大村セントラルホテルは償却期間が47年ですので、今はちょうど折り返し点。今後市内にホテルが増えると、大村セントラルホテルの経営は厳しいなと感じていました。

そこで、次に建てるとすれば、付加価値の高い宿屋にしたいと考えました。ビジネスホテルだけでなく料理屋も経営していますが、客単価1万円の料理を作るか、居酒屋で1000円の料理を作るかで、商売の在り方というのは全然違ってきます。打つ手を考えるため、行く先々で旅館やホテルを見てきましたが、ビジネスホテルよりは料金が高くてゆったりした宿、いわゆる離れ形式の宿が各地で流行り出したと感じました。

こういう宿を作ろうと構想を考えたのが5年ほど前で、それ以来、鹿児島県から山口県辺りまで、あちこちの宿に泊まってきました。さらに、開業の直前に、気になる宿にもう一度泊まって回りました。湯布院の最高級の3軒、亀の井別荘、玉の湯、山荘無量塔にも泊まりました。蔵王の麓では「だいこんの花」という宿に泊まりました。1万坪の土地に18棟の離れ形式の客室が点々とあって、雰囲気がとてもよいのです。私はそこが好きで、そこをモデルにしました。それで、この宿も花の名前をつけて「つわぶきの花」にしたのです。食べられるつわぶきの花です。あの黄色い花はとても綺麗ですから。

新しい器には新しいスタッフを入れて、理想のサービスを志向する

正直申し上げて、この宿のスタッフはあえて素人を集めました。玄人を連れて来ると、私が考える理想の接客や宿の実現は難しいからです。私も飲食業や建設業で営業職をやってきましたから、お客様への接し方は心得ています。下手なプロに頼るよりは、手探りで一つひとつ確認して積み上げていこうと思っています。お客様からご指導を受けながら、理想を追求していっていいじゃないかと考えました。特別なマニュアルは作っていませんが、口コミではよい評価をいただいています。じゃらんの口コミ評価は、5点満点で平均4.7点ほどです。

もちろん、至らないところもあり、お客様から苦情を言われることもあります。お客様からの苦情対応はとても重要だと考えており、2つのことを意識して取り組んでいます。その第一は、苦情を言われたお客様に直接お詫びしてご説明すること。第二は、従業員全員がお客様の声を共有することです。毎朝の朝礼の時には必ず、お客様の声を責任者が読み上げます。苦情だけではなく、お褒めの言葉も社員全員が共有するようにしています。

従業員の対応がまずかったりした場合などは、私がすぐに手紙を書いてお客様に送っています。ランチの食事券なども付けて。月に1回あるかないかですが、これは私の最も重要な仕事です。お詫びを書いて送るのですが、苦情を言われたご本人が繰り返し来館してくださったりします。ありがたいことです。誠実に詫びて、次は問題のないように致しますとお客様にお約束するのは大事なことだと学んでいます。

クレジットカードやデジタル化への対応

お客様の支払いはほとんどキャッシュレスになっています。日本の小さな旅館などではクレジットカードを使えないところがまだまだ多いですが、長期の旅行や高価格の旅行になればなるほど、お客様にはカードが便利です。私が経営しているビジネスホテルでは、クレジットカードでの支払いがほとんどです。私自身も各地を旅してクレジットカード払いの便利さを実感していますので、当館でもクレジットカードが使えるようにしました。

手数料が高いという経営者の声も分からなくはないですが、お客様の利便性を優先すべきと考えました。それに、カードを使えないためにお客様が消費を控えるという状況を作るのは、商売としてまずいと思ったのです。デジタルの時代ですし、カードを使えるようにするのはお客様へのサービスと考えるべきです。カードを使えないのではお客様には不便ですし、現金の手持ちが少なければ、お客様が消費を控えることになってしまいます。

当館のお客様の場合、予約された時点での事前決済が多いです。予約段階で支払いを済ませ、追加の支出はお土産ぐらいという方も少なくない。事前予約のためには、ホームページの充実が不可欠です。自社のホームページで決済していただくと、お客様と当館の直の取引になり、中間業者への手数料を支払う必要がなくなりますので。

(下)につづく

この記事について

元気な中小企業は、地域の宝!
地域経済を牽引する数多くの中小企業のなかから、福岡・佐賀・長崎の元気企業を紹介します。
中小企業経営者の波乱万丈の物語から、地域に愛される秘訣、世界に誇れる技術など、企業と地域を元気にするヒントがここに!