JR九州のななつ星に採用されて世界が変わった チーム大川は、職人仕事の働き方改革だ 【木下木芸】(下) 遊撃する中小企業 〜がんばってますけど、何か?

地域企業

代表 木下正人

木下木芸
創業:1990年3月3日
事業内容:組子を生かした建具・インテリアの製造
従業員数:2名
所在地:福岡県大川市向島1037-1
経営理念:お客様のことを第一に考えて仕事をする

水戸岡先生からの学び

ななつ星から始まった水戸岡先生との仕事は、ある意味、楽です。先生が全てデザインをしてくださいますから。しかし、先生のデザインが100であれば、それをそのまま作ったのでは当たり前なので、それを120に変えるように努力します。そうしないと、ずっと使っていただけないと思っていますので。

先生のデザインをそのまんま作ったのでは、多分、弱いものになっちゃって長続きしないだろうと感じることもあるわけです。そういう時は、材質や強度を工夫します。強度を増すために、デザインの指定よりも少しだけ太めにして、全体のバランスの中でかっこよく見える太さにしてお渡しするようにします。それでいいとなればそれでいいし、何でこれがデザインよりも太いんだと聞かれれば、この太さにしないと成り立たちません、ギリギリこの太さなら成り立ちますと説明します。説明できることが大事なんです。

「36ぷらす3」という新しいD&S(デザイン&ストーリー)列車の運行が始まりました。この列車の窓には雪見障子が付いています。以前から、水戸岡先生は列車の窓に雪見障子を付けたいとおっしゃっていました。しかし、列車は常に振動していますから、雪見障子は下がってしまいます。実は「或る列車」にも雪見障子は付いていますが、ピンで留めてあります。先生は、一番上だけピン留めすればよいと言われたんですが、JR九州の唐池会長は、どこでも止められるようにしたいと言われました。それで努力したんですが、「或る列車」ではピン留めはできませんでした。なのに、先生はもう一度雪見障子に挑戦しようとおっしゃったのです。難題でした。しかし、大掛かりなD&Sトレインに関われる機会はJR九州でも今後ないだろうから、チーム大川でやろうということになりました。

試作を作って、走る列車の中でテストをしました。一番揺れるのは鹿児島~宮崎間と宮崎~大分間とのことでしたので、硬さが違う4種類の試作を持って、列車の窓にその試作を取り付けます。テストをしながら、こうすれば下がらないとか、これでやれば下がらないけどそれでも怖いから絶対ここで止まる奴をやろうとか、いろいろ議論しました。やれることは全てやっておかないと、万が一問題が起こった時に、なんでやらなかったのと言われます。実際に運行して、クレームが出たら、それが一番の無駄なんです。クレームがないのが一番良いのです。できること全てをみんなで考えて、最善にしておくべきです。

そういう努力の末に「36ぷらす3」には新しい雪見障子が付きました。すると、先生から「唐池がね、良くできていると誉めていたよ」と言われました。うれしかったですね。唐池会長はいつもなかなか褒めてくださらないから、これを聞いてホッとしました。

ななつ星で水戸岡先生とお付き合いが始まったということは、大川組子にとっても、木下木芸にとっても、本当にターニングポイントになりました。初めてのお付き合いは、どちらかと言えば、ビギナーズラックみたいなところがありますが、2回目、3回目となると、要求がエスカレートしてくるんですよ。これができるならこれもできるよね、ということも増えてきますので。だから、どんどん難しいことにチャレンジするようになります。 結果として、さらに進化していくことになります。

チーム大川は、職人世界の働き方改革

チーム大川を創ったのは、木下木芸を設立したときです。私が元請けになってしまうと、一所懸命仕事してくれる建具屋さんは下請けになり、お客様から見えなくなってしまいます。そこで、私が仕事を請けても建具屋さんが仕事を請けても、全員が受注者であり納品者であるチームにしようと考えました。そうすれば、全員がお客様の顔を見られます。自分が下請けをしてきたからこそ、そういう形にしようと思ったのです。

製造業は元請けと下請けという縦の関係が一般的ですが、チーム大川は横の関係です。縦の関係だと、どんなに頑張っていいものを作っても、元請け以外はお客様の顔が見えません。やっぱり自分が関わった仕事は、最後の納品までしたいですよね。そして、お客様が喜ぶ顔を見たいじゃないですか。また、職人がお客様に顔を見せることによって、各人が作ったものに責任を持つようになり、自ずと職人のモチベーションも高まります。

プロフェッショナルが組んで、その中で得意な人が得意なところをやり協業するシステムが、チーム大川なんです。得意な人が得意なことだけを担当して、苦手なことは得意な人に任せて仕事をするわけです。そうすると、良いものができるし、早くできます。これが一番究極の在り方じゃないかなと思っています。現在のチームメンバーは9社です。建具屋さん、彫刻屋さん、塗装屋さんまでいますから、9社で大体のことはカバーできます。全てオーダーメイドです。デザインも全部変えて、毎回オリジナルです。大きい仕事の時はさらにメンバーを加えて手伝ってもらったりもしています。だから、短納期でも間に合うんです。

チーム大川に入れる条件は、思いです。図面どおりに作るのは当たり前なんです。チーム大川は、100を120、150に変えてやろうという思いを一緒に持てる人たちとだけ仕事をします。そうしないと、高いところを目指そうと努力しても、一人でも思いが低い人がいたら、全部低く見られてしまいますから。ひとつの仕事が終わった時は一緒に食事しますが、食事の間、ずっと仕事の話をしているんですよ。今度はあそこはこうしてこうしたいよねえ、とかですね。もう、それが楽しくて(笑)。もちろん、お客様が一番で、どうやってお客様を喜ばせようか、っていうのを考える仲間です。それがチーム大川です。

水戸岡先生と出会って、チーム大川のメンバーは本当に変わりました。これからは、日本だけじゃなくて、海外にも攻めていこうと思っています。水戸岡先生が、組子ハウスという組み立て式の茶室をデザインしてくださったんです。ある時先生に、建具の仕事が減っていますと言ったら「あ、そう」と言われて、次に会ったときに「こんなのを考えたけど」とラフ画をくださったのです。そして、「やる?」と。もちろん、やりますと答えました。

職人で一番重要なのはプライドです。プライドと自信、それがなければ、ななつ星は請けられません。私たちは普段家を作っていますが、ななつ星は列車で、動きます。振動もありますし、意外にも鉄板が薄いのでカーブでは車体がゆがみます。でも、ななつ星は、いまだにメンテナンスも破損も全くないんです。もちろん、クルーの方やお客様が、大事に使ってくださっているおかげでもあります。ホントにうれしいことですね。

【若林宗男のココに注目!】

チーム大川は職人の働き方改革だ。職人の世界では当たり前だった元請けと下請けの縦の関係ではなく、一人ひとりの職人が独立したプロフェッショナルとしてチームを作り、スクラムを組 み仕事を請け負う横の関係を目指している。

元請け下請けでは、元請けが受注者であり、仕事は全て元請けの仕事となる。下請けは元請けから受注するが、顧客とは無関係で終わる。下請けの責任は元請けへの納品であって、顧客と会うことはない。納品するのは元請けだけで、元請けだけが顧客の反応を見ることができるのだ。しかし、チーム大川ではメンバー全員が受注者となり、全員が顧客と向き合うので、全員がそれぞれの仕事で顧客に対して責任を負う。顧客は一人ひとりの職人に直接オーダーを伝えられる。納品は全員で行い、全員が顧客の反応を見ることができる。

チーム大川を推進する木下社長が特に強調するのは、職人の思いと顧客の喜ぶ顔が見られることだ。顧客と向き合い、顧客への納品責任を全員が意識すれば、自ずと職人のモチベーションが高くなるのだ。モチベーションが高ければ、仕事の質も高くなる。効果は大きい。

このチーム大川のモデルは、中小企業が多い九州でもっと取り入れられてよい。一社では引き受けられない仕事も、数社が連携すれば引き受けることができる。従来は、仕事の量を引き受けるための計算として考えられていた面があるが、モチベーションのこととして考える視点は重要だ。チームメンバーの人数の足し算だけでなく、掛け算の効果に期待したい。

木下社長によれば、大川組子がななつ星に採用された結果、全国の建具職人や組子職人が元気になったという。人々に知られるということは価値があるのだ。ななつ星は、列車であるだけではなく、メディアでもある。富裕層と、その周辺の顧客にリーチできるメディアとしての機能を持っているのだ。この機能をもっと活用すべきだと思う。

ポイントまとめ
職人の働き方改革と、デザイナー・メディアとの出会い

1.従来の職人世界の働き方を変え、全員が顧客の顔を見られるようなチーム作りを行った。
2.顧客がほしいものを職人が作るという、フルオーダーの商品制作に取り組む。
3.著名デザイナー・水戸岡鋭治氏との出会いにより、仕事の可能性が一変。海外進出にも意欲的になる。

(おわり)

この記事について

元気な中小企業は、地域の宝!
地域経済を牽引する数多くの中小企業のなかから、福岡・佐賀・長崎の元気企業を紹介します。
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