手作り、無添加の饅頭作りで72年 甘酒饅頭は創業以来変わらぬ味 お店を大きくしないことが繁盛の秘訣 【後藤の饅頭】(下) 遊撃する中小企業 〜がんばってますけど、何か?

地域企業

代表 後藤裕樹

後藤の饅頭
創業:1948年
事業内容:菓子製造業
従業員数:4名
所在地:福岡県田川郡香春町大字中津原 1050
経営理念:笑売と商売、短気は損気、急がば回れ

)からのつづき

お客さんの話を聞くと、リピーターが増える

うちの店は不思議なことに、饅頭が数種類しかないのに、しかも全体でも1日に300個も作らないのに、長居をされるお客さんが多いです。中には、4時間とか5時間もいらっしゃる方もおられます。皆さん、私たちと話をしていかれます。会話を楽しむというと、ちょっとよそ行き過ぎる感じがしますが。中には、饅頭を作っている時にもお構いなしに入ってきて、話をしていかれるお客さんもいらっしゃいます。

何を話していかれるかというと、世間話ですよね。多分、家ではだれも聞いてくれないから、後藤の饅頭なら聞いてくれるだろうと思って来られるのでしょうね。この土地に店を開いて72年間変わっていないですから、もう空気みたいなものなのかもしれません。この店には、叔母も母もいて手伝ってくれていますから、叔母や母に話をしたい人たちもいらっしゃいますね。

私たちも、なるべくお客さんと話をするようにしています。売るだけの商売だと、一見さんで終わっちゃいますから。お客さんと話をして、その趣味とか、気になっておられることとかを聞いてあげて、会話を広げるようにしています。なにか、家族のような形ですね。この店が、話ができる場所だと思ってもらえれば、また来てもらえるじゃないですか。話をしに来られるお客さんには、饅頭の出来立てを差し上げたり、煎茶をお出ししたりしています。話が弾みますので。

商売は笑売、笑いを売って、饅頭を買ってもらう

商売は笑売だと思うんですよ。笑いながら商売しましょうと。笑いを売って、饅頭を買ってもらいましょうと。これは僕の持論なんです。お客さんも面白い話ができると思えば、また来てくださいますから。のべつ幕無し、お客さんが並んでいるわけじゃないですからね。うちの店は1日300個ですから、通信販売もやっていません。お客さんが店に来られなければ、売れないのです。ですから、来ていただくことが何よりも大事です。来ていただけるのはホントにありがたいことです。

近所の人はもちろん多いですが、遠方にも常連さんはいらっしゃいます。小倉、行橋、八幡とかですね。遠方と言っても、筑豊、豊前、地域的なつながりがあるところはお客様が多いですね。

広告宣伝費はゼロ

こんな商売をしていますので、広告宣伝はしていません。だって、効率が悪いじゃないですか。地元の香春町や田川市では知らない人はいないと思います。無添加で手作りという和菓子作りをしている競争相手もいません。ですから、地元で宣伝する必要はありません。それで1日に作る数が300個以下ですから、その程度を売るのに広告宣伝費をかける意味はないですね。それにお客さんが増え過ぎたら、常連さんが困りますから。そもそも、お客さんを倍にしようなんていう考えはありませんから。

毎日お客さんに会えているのは大事なことです。お客さんのことが分かりますからね。ちゃんとお話ができていれば、また買いに来てくださいますから。

コロナの影響はない

コロナの影響ですか。ないですね。うちの場合はお店で直接販売する小売業なので、お客さんがここに買いにいらっしゃるので。もちろん、不要不急の外出は控えようということで、それぞれのお客さんの来店の頻度は減っていますけれど、全く来られないってわけじゃないですね。その分、一度来られた時に普段より多めに買って帰るなどされています。それから、頼まれて買いに来られる方も増えていますね。ですから、売上には影響ないです。

うちの饅頭は、冷凍保存できますので、買い置きして冷凍庫で保存される方が多いです。ですから、お店に来る頻度が減ってもあまり影響はありません。それから、お土産として箱詰めにして持って行くというお客さんも多いですね。ここに来ないと買えないので、特別感があるのでしょうね。コロナで外出を控える人が多くなっていますから、このニーズは増えているように思います。

帰って来られて、お店を継ぐことができて、ホントによかった

今年50歳になりました。関東から戻ってから11年(取材時)になります。帰って来てよかったです。関東にいてサラリーマンを続けていたら、身体が持たなかったと思うんですよね。残業、残業で仕事に追われていましたから。こっちに帰って来たら、ノルマはありませんし、自分のお店ですから、自由に好きなことができる。上司もいないし、部下もいません。だから、ストレスもありませんね。
今は、体を鍛えるために、ランニング、筋トレをしています。若い頃から体を動かすのが好きで、サーフィン、スキー、バイクなんかもしました。最近、海釣りを始めました。近所の海、若宮の海で釣っています。

毎週月曜日が定休日で、お正月とお盆もしっかり休んでいます。お客さんも理解してくださっています。冷凍保存ができますから、お客さんが買い置きして自宅で保存してくださっています。

お店を継いでよかったです。感謝しています。お店を手伝ってくれている叔母と母と、そしてお客さんに。ホント、継いでよかったです。帰って来られてよかったです。

【若林宗男のココに注目!】

後藤の饅頭のビジネスの特徴を一言で言えば、持続経営。大きくすることも、多店舗展開することも、商品を増やすことも考えていない。今日あることを明日も続けられること。そのことに最大の価値を置いている。無添加で手作りという創業以来の饅頭作りを守り続けている。それ故に、無添加で手作りには競争相手がいないと悠々としていられる。

売上が大きくなることや、お店が増えたり大きくなったりすることをビジネスの成長と考えている人からみると、対極にあるビジネスだ。じいちゃんが作ったレシピを守り、創業時の材料を確保し続けて、じいちゃんが作った饅頭を作り続ける。そのことに何の迷いも疑いもない。

話を聞いていて、すがすがしささえ覚えた。
迷いのなさはどこにあるか、考えてみた。それはお客との対話から来ているのではないかと思った。聞けば、常連さんの多くは、饅頭を買ったらすぐに帰るわけではないらしい。店主や店主の叔母や母と会話をしていくのだという。店主やその叔母と母も客との会話を楽しんでいる。常連客との会話、常連客を観察することが、お店の自信の裏付けとなっているのだ。

余談だがUターン組の後藤社長は今ではストレスもなく、休日にはキャンプや釣りなどの趣味を楽しんでいるようだ。このような伸び伸びとした姿勢が、お客の居心地のよさにもつながっているように思える。

ポイントまとめ〜変わらないこと、自分の立ち位置を守り続けることの強み

1.無添加、手作り、作っている場所で商品を売る、1日に300個以上は作らない、という創業の基本を変えていない。
2.商売は笑売、笑いを売って、饅頭を買ってもらう。饅頭だけを売っているのではなく、客とのコミュニケーションも合わせて売ることで、客の満足度を高めている。
3.隣の芝生を見ないで、自分の芝生に集中する。

(おわり)

この記事について

元気な中小企業は、地域の宝!
地域経済を牽引する数多くの中小企業のなかから、福岡・佐賀・長崎の元気企業を紹介します。
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