素人発想と玄人実行の精神 少量高品質の楽しいモノづくり 中小企業の連携を模索し商機を追求 【株式会社ナダヨシ】(下) 遊撃する中小企業 〜がんばってますけど、何か?

地域企業

代表取締役 植木剛彦

株式会社ナダヨシ
創業:1981年6月5日
事業内容:精密板金、溶接加工、研磨一式
従業員数:20名
所在地:福岡県古賀市青柳194
経営理念:素人発想、玄人実行の精神とたゆまぬ技術の向上をもって 人に喜びを与えるモノづくりをし、地域社会に貢献します

)からのつづき

賞で信頼を得る

リーマンショックの後は仕事が減り、他社が時短営業に向かう中、親しい友人知人から「こんなもの作っとらんで、少しでも仕事を取りに行きなさい」と言われても、先代の社長は毎日会社に出てモノづくりをしなければダメだと言い、今回の作品で金賞をとるぞと宣言しました。仕事が少ない状況を生かし、たっぷり時間と技術によりをかけて挑んだのが、第22回優秀板金製品技能フェア(2009年~2010年)でした。当社は「宝箱」 という作品で初の金賞と、中央職業能力開発協会会長賞を受賞したのです。「宝箱」はステンレスの薄板で作った道具箱です。溶接が多用され、その溶接の跡がわざと見えるようにしてあります。普通溶接をすると歪みが出て、蓋がずれたりするのですが、「宝箱」は蓋がピタリと閉まります。外側は溶接跡を見せてあえて磨き上げをせず、内部は工具が入らないような細かなところもきっちり研磨し、開けた瞬間まばゆくて驚くほどピカピカに研磨しています。誰もが不思議がるほどの出来栄えでした。熟練の技術者の技を組み合わせたことが評価されたのだと思います。受賞により、メーカーからの信頼、金融機関からの信用を得て、アマダ製のNCレーザー・タレットパンチ複合機(以下、複合機)を導入することができました。フルデジタルでCADとの連携に優れ、パンチによる穴開け、成型、ねじ切り後のレーザー切断など、複数の工程をひとつの機械で行うことができます。溶接を減らす作りにもできるので仕上がりも良く、従来の仕事よりも3~4工程も減らすことが可能になります。複合機導入の効果もあってさらに技術力が向上していきました。遠賀信用金庫さんからの融資をもとに新たに第二工場の稼働も実現しました。

2013年には、今度は最優秀賞である厚生労働大臣賞を目指すぞということで、「2015年、大臣賞をとるぞ!」とスローガンを掲げて取り組みました。そして見事その年、第27回技能フェアで「240面体」という作品で厚生労働大臣賞を受賞しました。1枚のステンレス板から、サイコロの展開図のようにつながっている240個の台形を切り出し、それを折り曲げて組み合わせて立体を作ったのです。実用性はないのですが、形が美しく、どんなふうにつながっているのかすぐには分かりません。そこが面白いというのが我々の狙いでした。

受賞して感じたことは、実用的なものでなければ評価は得られないのではないか、という心配が杞憂だったということです。審査された方々が、「今持っている技術の最高峰を集めた作品を作ろう!」という当社の志を理解してくださった結果だと思っています。ステンレス加工で楽しみを創造する会社、人に喜びを与えるモノづくり。作品はナダヨシの経営理念そのものです。

実用性のあるもので賞をとる

実用性のあるもので賞をとるという課題は、数年後に成し遂げました。第31回技能フェアで、「園児用デザインシンク」で厚生労働大臣賞を受賞したのです。これは、福岡県糟屋郡の同業者、ナサ工業株式会社が当社に製作を依頼したものでした。企業主導型保育園を開園するにあたり、2歳児が初めて蛇口を操作して手を洗う「楽しくて安全なシンク」を作って設置したい、というコンセプトの依頼でした。2歳児が初めて蛇口を操作して手を洗う。どんな気持ちがするのだろう。考えるだけでワクワクします。子どもたちが手を洗うことが好きになる、使いやすくて気持ちが良いシンク。それにはどんな形が相応しいのか、考えました。

シンクと言えば通常は角が丸い四角形ですが、この園児用デザインシンクは船のような形にしました。楕円形を四半分にしたような形です。全ての辺と角は丸みを帯びており、鋭角のところはひとつもありません。シンクの左側が狭くなっていますが、それは設置場所の左側に出入り口があり、子どもたちがぶつからないようにと配慮した結果です。「上質の追求」を経営理念に掲げる同業の先輩企業であるナサ工業の依頼に、「人に喜びを与えるモノづくり」を経営理念とする当社が応えたのです。

賞がお客様を連れてくる、機械が仕事を持ってくる

性能のよい機械を導入すると、機械にお客様が付いて来ます。そしてお客様が仕事を持って来てくれます。新しい機械の性能を最大限に引き出せる会社なら、同業者や機械メーカーがお客様や仕事を紹介してくれます。新しい機械でないとできない仕事というのは確かにあります。機械メーカーは、その機械を導入した企業が、それを活用して、事業の幅が広がるような提案をしてくれます。ですから、新しい加工技術を求めている顧客を紹介してくれることもあります。アマダが続けている技能フェアというのは、工作機械の性能を最大限に活用して技術力を発揮する、その評価を受けるチャンスなのです。

技術交流が事業連携を可能にする

技能フェアに参加して受賞すると、受賞作品展示会場で他の参加者が話しかけてこられます。技術者というものは、他の技術者の技に尊敬の念を抱きます。「これはどうなって いるのですか? 溶接の電流はどのくらいですか?」など、貪欲かつ掘り下げた質問をしてこられます。表彰式後の懇親会で技術交流が始まり、その後一晩中宿泊施設で語り合う姿もあります。それぞれの会社に戻ってからも技術交流は続くのです。

板金加工製造業は、ビジネスの発注規模が大きな業界です。10台や20台ではなくて100台単位の発注が普通になっています。そういう時に、1社で100台受けられないからと断ってしまうのは機会の損失です。他社と連携して分担することができれば、100台を数社で受けることができます。そして、それは発注する側にとってもワンストップで発注できるというメリットがあります。このような分担は、技術交流などの機会にお互いのことを知り合っていなければ難しいものです。情報交換を通じて、技術者同士が話ができる関係になっていることが不可欠なのです。

アマダは、技能フェアを開催することにより、技術交流のプラットホームを提供してくれています。技能フェアに毎年出品する会社はいずれも技術力やデザイン力があるのはもちろんですが、積極的で社交的な方が多いように感じます。またそれぞれの企業で稼働している工作機械についての情報交換は、機械がよりよく使われ、未知の性能を引き出し、よりよい成果を生み出すことにつながります。こういう製品ができないかという相談があれば、そのネットワークでお互いの技術力の研鑽や、新しい発想が生まれます。このような交流が事業連携を可能にするのです。

若い世代への技術の承継が大きな課題

人口減の時代で優秀な技術者を確保することは、とても重要な課題です。当社では今まで、新規高卒採用をして育てるのが良いと考えていました。しかしながら、なかなか定着しません。原因はリーマンショック後の新卒採用を見送ってきたこと、それにより年齢層の空洞化を招き、若い世代と熟練技術者の間に世代のギャップが生まれたことでした。新規高卒採用者が心を開ける、年齢の近い社員が少なかったのです。この反省から、今では毎年新卒採用に加え、第二新卒や中途採用にも力を入れています。世代の溝を埋めることがコミュニケーションの活性化につながり、そこから技術の承継が可能になっていくと考えています。

これからはPCで機械をコントロールする時代です。若い世代はデジタルも含めて、複数の工程を遂行できる多能工として育て、キャリアのある技術者はその道を究める方向で発展させたいと考えています。しかしながら、製作の現場でしか学べない人の「技」の部分や、臨機応変な対応、創意工夫、デジタル化に頼った図面では描けないような細部の具現化も承継が必要です。創造力を養うことも重要だと思います。

【若林宗男のココに注目!】

第31回技能フェアで厚生労働大臣賞を受賞した「園児用デザインシンク」のように、既存のシンクの形にとらわれない自由な発想と、それを使える製品にまとめ上げる技術力。手作りマスクを作るための型紙をステンレスで作ってしまうアイデアの柔軟性。技術力と柔軟なアイデア、自由な発想を大いに発揮して、九州のモノづくりを牽引してほしい。

ポイントまとめ〜自由なアイデアを形にする、確かな技術の力

1.短期間にオンラインショップを立ち上げ、商品も揃えてしまう機動力。
2.最新の機械と職人の手仕事の協業。
3.二度の厚生労働大臣賞受賞の技術力。
4.マスク製造用金型からステンレス薔薇花束まで、自由な発想でモノづくりを楽しむ力。

(おわり)

この記事について

元気な中小企業は、地域の宝!
地域経済を牽引する数多くの中小企業のなかから、福岡・佐賀・長崎の元気企業を紹介します。
中小企業経営者の波乱万丈の物語から、地域に愛される秘訣、世界に誇れる技術など、企業と地域を元気にするヒントがここに!