創業100年の神埼の小さな菓子店 三代目の意地【大串製菓店】(下)遊撃する中小企業 〜がんばってますけど、何か?

地域企業

大串製菓店 代表 大串久昭 氏

昭和43年佐賀県神埼町(現在の神埼市)生まれ。
サラリーマンとして働いていたが、家業の菓子店に戻って父親に師事。慣れない仕事に苦労するも、産学官連携で開発した「ひしぼうろ」が起死回生のヒット商品に。今では地域に元気を生み出すリーダーのひとりとなっている。

大串製菓店
創業:大正8年
事業内容:菓子・餅類の製造販売
本社所在地:佐賀県神埼市
電話:0952-52-2888
ホームページ:https://hishibouro-saga.com/
令和元年に創業100年を迎えた和菓子店。菓子どころ佐賀平野において地域の名店として愛されてきた。三代目を継いだ久昭氏の手によりヒット商品が生まれ、全国への発送が始まっている。

)からのつづき

苦難の末に誕生した郷土のお菓子

デンプン質の中身も使って良いとは言われたが、実よりも皮の方が栄養素であるポリフェノールの含有量が約50倍、抗酸化活性(疾病の要因となる活性酸素を除去する働き)は約30倍と断然栄養効果が高いため、できれば皮だけで勝負したい。しかし試しに菱の皮を食べてみると硬い上に独特の苦味があり、菓子の材料としては手強い相手だった。それでも大学側の提案に応じて細かな粉末に加工して材料に混ぜ込み、かりんとうやチョコレート、クッキー、饅頭などを次々に作ってはみた。

「でも何だか菱とは合わない感じでピンとこないんですよね。それで他に何かないかと探すうちに、佐賀銘菓の丸ぼうろがいいんじゃないかと思ったんです」

試しに卵・砂糖・小麦粉に加えて焼いてみると味わいはいい感じだ。しかしもともと水草である菱の粉が材料の水分を吸い上げてしまうため、焼き上げた丸ぼうろが1日で硬く乾燥してしまった。独特の苦味も強く出ると風味を損なってしまう。
最初は商品化には程遠い味だったが、菱の皮の分量を変えたり餅粉を混ぜてみたりしながら200 回以上もの試作を積み重ねた。その過程で西九州大学の学生や神埼市の職員、一般市民による3度の官能検査(人間の感覚を用いてする検査)を繰り返し、集めた評価を分析しながら、より多くの人に支持される味わいを追求していった。

「それはもう大変でしたよ。大学や行政からの要求も厳しかったので、ケンカをしながら毎週打ち合わせを重ねました。しかし自分の作ったお菓子に対しストレートな評価が聞けるし、やり甲斐のある仕事でしたね」と振り返る大串代表。サラリーマン時代にはなかった真剣勝負を通じ、自らの菓子職人としての価値とプライドを徐々に高めていった。

こうして関係者みんなが納得できるお菓子が完成したのは、プロジェクト発足から約1年後の平成24年秋のこと。
菱の皮の配合比はほのかな苦味が甘さを抑えた微妙な塩梅を狙い、ややもっちりした食感とどこか素朴な味わいは、本家丸ぼうろとは似て異なる神埼市のオリジナルであった。

予想を上回る反響と手応え 

当初は丸だった形も菱の実に似た半月形の抜き型を作って独自のフォルムを追求。発売ひと月前になってからの変更だったが、オリジナリティを重視して生地の硬さまで調整した。
パッケージにはこの商品のために生まれたキャラクター「ヒッシー君」があし らわれ、汗をかきかき「必死(ヒッシ)に」頑張る姿がユーモラスで親しみやすい商品に仕上がった。

記者発表には神埼市長や西九州大学関係者とともに大串代表も招かれ、報道関係者を 前に堂々と商品PRを行った。さらに発売を前に西九州大学の大学祭で先行予約販売を実施すると、2日間で販売を見込んでいた1,500 個が1日で完売してしまう人気ぶりであった。
平成24年11月1日からは大串製菓店や西九州大学、直売所「吉野ヶ里遊学館」 などで正式販売がスタート。すると直後から売れ行きは好調で注文や問い合わせも相次ぎ、予想以上の反響に産学官のプロジェクトに関わった関係者全てが喜びに沸いた。

「もう一日中電話が鳴りっぱなしで仕事にならない有様でしたね。福岡や佐賀から『送ってください』と言われるんですが、まずは直接足を運んでくださるお客様を優先させてもらいました」
それでも発売当初は控えめの価格設定だったこともあり、発売からひと月後には用意していた包装紙が欠品するほどの売れ行きであった。以後も出荷額はずっと右肩上がりの状態が続き、今では店の売上の7割を占める稼ぎ頭へと成長している。

さらなる販路を求めて アクティブに

「しんきん合同商談会」には平成25年の第2回以降、平成29年の第5回まで4回連続して出展。大手流通系バイヤーと商談し、商業施設複数店での出荷が確定、また多くの人に目を留めてもらう機会となり、その後の商談のきっかけとなったそうだ。
そうした努力が徐々に実を結び、現在の出荷先は百貨店、神埼市役所や議員、市内企業の贈答品、イベントのノベルティ、流通卸など多方面に広がっている。
さらに4年前のある日には『日本野鳥の会』から取引を求める電話がかかってきた。

「なんでもカモに似た『ヒシクイ』という水鳥がいるので、ひしぼうろを会員向けに販売したいとおっしゃるんです。鳥が食べるものを食べたがる会員さんが多いそうで(笑) 以来毎年かなりの数をご注文頂いています」

この先ずっと地域に愛され続けること

こうして努力の末に生まれたひしぼうろは、どん底だった店を救うヒット商品となり、大串代表と西九州大学の安田みどり教授も各方面から注目される存在となった。
大串代表は佐賀県菓子工業組合の理事に推され、現在は全国菓子工業組合連合会でも青年部九州ブロック長を務めるなど、名実ともに業界のリーダーとして認められている。安田教授も地域食材の開発で確たる地位を築き、様々な特産品開発プロジェクトへ引っ張りだこという状況だ。

産学官連携の商品は発売から数年で勢いを失うのが常であるが、ひしぼうろの販売数は発売から6年半が過ぎた今でも伸び続けており、さらに大きな商談も入っているという。
「家族だけで作って売る今の体制では、そろそろ能力的に限界がきています。新たな機 械の導入や工場建設など、大きな投資をするか どうか、今真剣に考えているところですね」と話す大串代表。
先代が苦しい時もずっと支えてくれたメインバンクとしてお付き合いが続く佐賀信用金庫神埼支店でも、ことある毎に立ち寄ってサポートを続けている。

神埼市にある住宅兼店舗。

プライベートでは先ごろめでたく再婚を果たし、公私ともに充実した日々を送る大串代表。
菱の実との出会いから約7年、地域の人たちとの縁を前向きに生かし、真正面から取り組んで大きな成果を生み出した。
「次の商品の話もあるのですが、まずはこの先ずっとひしぼうろが地域に愛され続けることが一番の夢です」とひしぼうろへの思いを語る大串代表。
人生の転機を生んでくれたひしぼうろと共に、これからも地域に貢献して行くことだろう。

(おわり)

この記事について

元気な中小企業は、地域の宝!
地域経済を牽引する数多くの中小企業のなかから、いま、信用金庫が注目する、福岡・佐賀・長崎の元気企業を紹介します。
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