変わってゆく農業の現場で省力化を実現するユニークな機械を作り続け地域に貢献する農機メーカー 【田中工機 株式会社】(下)遊撃する中小企業 〜がんばってますけど、何か?

地域企業

代表取締役社長 田中秀和氏

昭和51年長崎県大村市生まれ。
28歳の時に 東京からUターンして家業の田中工機(株)に入り、令和元年7月に三代目社長に就任(取材時は副社長)。設立40周年を迎える大村商工会議所青年部で会長を務めるなど、地域の若手リーダーとしても活躍中。
趣味は音楽で、仲間とのバンド演奏や録音を楽しんでいる。

次世代乗用型ピッカー「アガール」。
ネーミング大賞も受けた話題の新製品だ。

田中工機 株式会社
創 業:昭和24年
事業内容:農業用機械の製造・販売
本社所在地:長崎県大村市
電話:0957-55-8181
HP:http://www.tnkk.net

長崎県大村市の農業機械メーカー。
従業員数24名。
根菜類栽培が盛んな地域特性に合わせ、植え付け、掘り取り、収穫、茎葉処理などに用いる機械を独自に開発し、製造・販売を展開。
農作業の高効率化により農家の負担軽減に貢献している。

)からのつづき

小回りの良さ生かし農家の負担を軽減

植え付けと掘り取り作業は省力化されたが、掘ったイモを集めるのも農家にとっては大変な仕事である。そこで次に誕生したのが、掘り取ったジャガイモをそのまま横に送り、3〜5畝分を1箇所にまとめる機能を持つ「スーパーメークイン号」だ。この機械も好評で、昭和62年の発売から現在まで継続生産されている。

さらに同社では農家のために解決したい工程がもうひとつあった。掘り取り前にジャガイモの茎や根を引き抜く作業である。引き抜かずに切ってしまうと、残った茎に病気の元となる菌が繁殖し、翌年の収穫に影響を与えてしまう。ゆえに農家は茎葉だけを完全に引き抜ける機械を欲しがっていたのだ。このような機械はまだどこも造っていなかったが、同社ではヤンマー農機の協力を受けながら3年半の歳月と12台もの試作機を費や して開発を行い、昭和63年に業界初のジャガイモ茎葉処理機「YIK-1」を発売。こちらもまた現在まで主力商品としてヒットを続けている。

これらの製品開発により、田中工機のラインナップで植え付け・茎葉抜き・掘り取りというジャガイモにまつわる重労働を全て機械化することができた。およそ10年間でここまでの開発ができたのは、同社の高い技術力と『農家の負担を減らしたい』という情熱である。また大メーカーではないゆえ、逆に小回りが利いたことも幸いした。現在副社長を務める田中秀和氏は「営業に出た先で、畑で作業している人を見たら声をかけて 話を聞くんです」と話す。農機の使用状況は地域や農家によって様々で「隣り合う町なのに売れる機械が全く違うことがある」ともいう。そのように細かな要望に耳を傾けながら、地域に合った製品を開発してきたため、今では長崎のジャガイモ農家ほぼ全てに同社の製品が使われるようになっている。枝葉処理機は業界最大手の(株)クボタからも注目され、平成4年には取引が始まった。一連のジャガイモ関連機械は現在まで好調な販売を続けており、同社の基幹商品となっている。

世代交代で時代に合ったスタイルへ

平成5年には組織変更を行って、創業者の嘉津雄氏は会長となり、息子の田中博氏が第二代の社長に就任した。売上に占める自社製品の割合も順調に高まり、商品も玉ねぎ用やサツマイモ用、運搬機など徐々に増えて現在は70〜80種。少量多機種生産の経営スタイルを確立した。当初の商品ラインナップは個人農家向けの歩行型ばかりだったが、エンジンを積んだ自走型の大型機械が加わり、規模の大きな営農事業者のニーズにも応えられるようになった。設備面ではレーザー切断機やロボット溶接機を他社に先駆けて導入。職人的な技術に頼るやり方から、ノウハウをデータ化して効率の良い生産方式へ切り替えていった。こうした機械化、IT化により商品開発と生産のスピードは大幅に短縮され、長期的なコスト引下げにも貢献している。

こうして経営は安定してきた一方で、人材育成面では課題も多かった。特に塗装部門はなかなか人が定着しなかったが、そこに平成16年に配置されたのが当時28歳だった二代目博氏の長男・秀和氏である。秀和氏は沖縄の大学を卒業後、東京に出て音楽の道に進み、録音エンジニアとしてのキャリアを積んでいた。しかし東京で結婚後、子育て環境や自らの将来像を考えるうち、大村に戻って家業を継ぐという道を選んだ。

覚悟を決めて入ったものの、塗装現場は想像以上の厳しい環境。夏は暑くて冬は寒く、マスクをしても匂いが鼻に入ってくる。それでもめげることなく職場改善に知恵を絞り、工程の省力化やコスト削減に成功した。これを見て父や祖父も信頼したのか、徐々に他の仕事を与えるようになり、現場を通じて少しずつ会社としての動きを学んでいった。

しかし一番勉強になったのは会社内ではなく、商工会議所青年部での活動であったという。中小企業の若い経営者たちと交わるうちに、会社や地域の未来を語り合う姿に触発され、自らも後継者としての自覚が芽生えてきた。塗装現場を軌道に乗せると営業や商品開発など経営面にも携わるようになり、周囲の見る目も変わっていった。

生産の現場は自動化・IT 化が進み、溶接作業を主に受け持つのはロボットとなっている。

未来の農業のために今を生かしたい

「とはいえ最初は何を話していいかわからないし、営業が嫌で仕方なかったですよ」という田中副社長。それでもなんとか話の糸口を探り、頑張っているうち、徐々に成果が出てきた。そうなると面白みもわかって自信もつき始め、今では社長として誰もが認める存在になっている。

最近売り出し中の商品は乗用型の自走ピッカー「アガール」だ。平成29年に発売したこの機械は、構想から 25年の歳月を経てようやく実用化に至ったもので、掘り上げたジャガイモや玉ねぎなどを残さず拾い上げ、コンテナ詰めまでを一気に可能とした機能を持っている。最大4人が椅子に座ったまま作業を行える画期的な機械だ。ユニークなネーミングは「アグリカルチャー」や拾い「上げる」能率が「上がる」、「ガール」でも簡単、といった意味をかけたもの。カタログ写真には着物を着た若い女性を起用し、業界新聞でも大きく取り上げられた。

「そこは話題性を狙いました。広告費がないなら、メディアに注目されることが必要と思いまして」と話す田中副社長。近年は他にもジャガイモ植付機「ジャガール」や根葉切断機「シアガール」、掘取機「ほるべえ」、茎抜機「ひきぬい太郎」など、同社の製品は楽しいネーミングで話題を集めている。その効果もあって最近では遠方からの問い合わせも増え始め、北海道からオーダーが入ることも。現在の販売先は長崎県内が6 割、 鹿児島県向けが2〜3割で、残りの1〜2割が他県となっている。

「もっと関門海峡を越えて『海外進出』しないといけないんですけどね」と笑うが、一方で「農業現場の 人手不足はこれからますます進むので、我が社の機械をもっと提案して、産地を維持していく使命がありま す」と危機感を強めている。

時代の要求に合わせた機械を作り続けてきた田中工機は、令和元年7月に創業70周年を迎え、同時に副社長が第3代社長に就任する。(取材時)「緊張よりはワクワク感の方が大きい」という社長の目には、農業の未来を支える将来像がしっかりと見えている。

おわり

この記事について

元気な中小企業は、地域の宝!
地域経済を牽引する数多くの中小企業のなかから、福岡・佐賀・長崎の元気企業を紹介します。
中小企業経営者の波乱万丈の物語から、地域に愛される秘訣、世界に誇れる技術など、企業と地域を元気にするヒントがここに!